その2:続・IT(情報技術)って、何だ?

続・「IT(情報技術)」って、何だ?

 前回に引き続き、「IT(情報技術)」ってどんなものかについてご説明したいと思います。

 「IT(情報技術)」とは、コンピューターや通信など情報を扱う工学およびその社会的応用に関する技術の総称であり、そこに含まれる技術は1つではなく、たくさんある・・・ということ。また、「ITに関連する技術の性能向上のスピードが指数関数的に速い」ことにより、IT技術やIT製品はそう何年も同じ形で存在することができず、年齢層によって、「IT(情報技術)」のイメージに違いが出ることをご説明しました。それを証明するために、ITが生まれてから現代にいたるまでのITの変遷について説明しています。前回は1960年代~1970年代後半までの、日本のコンピューター時代が幕開けし、大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)がITの中心にあった時代についてご説明しました。今回はその続きである1970年代後半以降のITの変遷についてご説明したいと思います。

 1970年代後半になると、IT業界に二つ目の大きなうねりがやってきます。それは「パーソナル・コンピューター(PC:personal computer)」です。半導体技術の進歩により、コンピューターの小型化・低価格化が進み、ついに個人で持てる可能性が出てきたのです。そのうねりの先頭に立ったのが、アップルコンピューターのスティーブ・ジョブスとマイクロソフトのビル・ゲイツです。実はこの二人と私は同世代です。1970年代後半は大学の後半の時期ですが、私はIBMの大型コンピューターを使うことで満足してしまっていたのに対し、彼らは「パーソナル・コンピューター(PC:personal computer)」の新たな可能性に気づき、大学に在籍中から人生の全ての力を注いで製品開発をし、世の中に打って出たのです。
 1976年にはスティーブ・ジョブスらが設立したアップルコンピューターが、世界初の個人向けコンピューター「アップルⅠ」を発売しました。「アップルⅠ」は基板(マザーボード)むき出しでキーボードもディスプレイも付いてなかったため、ユーザーがこれらを別途用意する必要があり、ヘビーユーザー向けでしたが、1977年に発売した「アップルⅡ」ではきれいなケース(筐体)に基板を入れ、キーボ-ド、ディスプレイを付属させユーザーの負担を大きく減らしたことから一般のユーザーにも受け入れられ、200万台を超える大ヒットとなり大成功を納めました。
 一方のビル・ゲイツはソフトウェアの開発でチャンスをものにしました。1981年にその頃のITの巨人であるIBM(International Business Machines Corporation)と、IBMの製造するパーソナル・コンピューター用のオペレーティング・システム(OS:Operating System)と呼ばれるコンピューターの動作を管理・制御するソフトウェアを供給する契約を結ぶことに成功したのです。IBMも大型汎用コンピューター向けのオペレーティング・システムを開発しており、技術力は豊富にありましたが、短期間に低コストで開発をおこなうため、自社での開発を見送ってしまいました(OEM戦略)。そのため、マイクロソフトはその後もIBMが提供する多くのパーソナル・コンピューターに独占的にオペレーティング・システムを提供することとなり、事実上の世界の標準(デファクト・スタンダード)の地位も得ることとなりました。


The IBM Personal Computerr IBMホームページより
(https://www.ibm.com/ibm/history/ibm100/jp/ja/icons/personalcomputer/)

 そしてこの「パーソナル・コンピューター」のうねり、つまりコンピューターをより安く、便利に世界中の人が使えるようにすることへの挑戦は続くことになります。より小さく、より高性能でより安くコンピューターは進化していきました。その結果、机の上に置くデスクトップ型をスタートに、家の中での移動ぐらいならできるノートブック型、さらに出張など外出する時も持ち運べるほとコンパクトで軽量になったモバイル型、そしてキーボードを無くし、タッチペンで操作可能なタブレット型へと進化し、現在一番使われているスマートフォンへ、そしてさらに小さい腕時計型などのウェアラブルコンピューターへと形を変えています。その性能向上もすさまじく、現在のスマートフォンの性能は1970年代前半の大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)1台の性能をも凌ぐと言われています。私が大学時代にやっとの思いで1日に数秒だけ使っていた大型汎用コンピューターに匹敵するコンピューターを、今や地球上の40億人もの人々が日常的かつ個人的に使うことができる時代になったのです。
 この頃の日本市場はどうなっていたかと言うと、米国の状況にそれほど遅れることもなくNECやシャープ、富士通などが日本語処理に独自機能を入れるなどして「パーソナル・コンピューター」を製品化しました。特にNECのPC98シリーズは日本国内で大きなシェアを獲得しました。さらに東芝はダイナブック(DynaBook)という製品名のノートブック型で一世を風靡し、1989年に発売したJ-3100SSは19万8千円という当時では破格の価格を実現したことにより、大ヒットとなりました。デスクトップ型パーソナル・コンピューターは日本企業は日本国内市場でしたシェアを獲得できませんでしたが、ノートブック型ではアメリカを中心とする世界シェアでも存在感を持っていました。それが続いていればに日本企業も「パーソナル・コンピューター」のうねりの先頭集団で、アップルコンピューターと同じようにプラットフォーマーの一角を占め、スマートフォンやウェアラブルコンピューターなどのプラットフォームビジネスをしていたかもしれません。

 以上、ご説明したように、1970年代後半~2000年は、ITの中心がそれまでの大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)」から「パーソナル・コンピューター(PC:personal computer)」に移っていった時代だと言えます。

 1990年代後半になると、IT業界にもう一つの大きなうねりがやってきます。それは「インターネット(Internet)」です。

 「インターネット」はネットワーク型の通信手段の一つです。通信手段とは、「コンピューター」と「コンピューター」をつなぎ、計算を行うために必要なデータなどの情報を伝えるものであり、大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)の時代からいろいろなタイプの物が開発され、使われてきました。一番原始的なものは、コンピューターとコンピューターを1対1で専用の信号線でつなぎ、電気信号で情報を送るものです。しかし、この方法では専用の信号線を敷設する必要があるため、それほど長距離の伝送はできず、コストもかかりました。そのため、長距離の場合は、電話線を利用し、情報を送る方法なども採用されました。いずれにしても、その通信で送る情報は、コンピューターが計算するための技術計算用のデータが主なものでした。通信がない場合、これらのデータは磁気テープなどに記録し、それを運んで使っていました。ちょっとした量のデータを運ぶのも、結構大変な作業でした。
 インターネットの開発が開始されたのは結構古く、1970年代初頭からです。当時、コンピューター同士を通信でつなぐということは技術的に大変な作業でした。まず電気信号が間違いなく伝わる必要があるため、信号線は同じ物理的な特性をもったものにしなければならず、電気的につながったとしても、データを伝えるための手順(プロトコル)を送り手側と受け手側できちんと合わせる必要があります。当時はコンピューターを開発・制作している会社毎にこれらの製品を独自仕様で制作していたため、特に異なる会社のコンピューターを接続するのは大変な作業だったのです。また、接続はコンピューターとコンピューターを1対1だったため、4台の受け手側コンピューターと同時につなぐには4台の送り手側コンピューターか通信装置を用意しないとならないなど、とても非効率的だったのです。そのような状況を打破するため、異なる会社の複数のコンピューターと同時に接続できる通信できる方式が研究されました。その結果生まれたのが「インターネット」であり、異なるコンピューターを接続できるように標準のデータを伝えるための手順(プロトコル)を定義し、複数のコンピューターを同時接続できるように「ネットワーク」という構造を持ち込みました。「インターネット(Internet)」の語源は、英語のinter(相互の)+network(ネットワーク)から来ています。現在の「インターネット」の原型が完成したのは1983年ごろですが、この頃はまだコンピューター技術者や様々な学者・研究者が科学技術データを送ったり、Eメールをやりとりするためのものであり、ごく一部の専門家で利用されているだけでした。
 そんな「インターネット」が現在のように一般のユーザーに使われるようになった転機の一つは、ウェブ(World Wide Web)の登場です。ウェブは欧州原子核研究機構 (CERN)のティム・バーナーズ=リーによって1990年に開発されました。その狙いは、世界中の大学や研究所の科学者・研究者たちが作りだした研究成果(文章:テキスト)を一つに結び付け(リンクする)し、共有することであり、これにより研究効率が上がることを目指していました。このような狙いを実現するシステムとしてハイパーテキストシステムを採用し。これをインターネット上で実現したのがウェブです。ウェブの登場により、インターネットでつながる世界中の研究者の作りだす情報を共有することが可能になったのです。当初のウェブでは文字情報(テキスト)しか扱えませんでしたが、その後改良が加えられ、現在のように画像や動画、音声などいろいろなメディアを扱えるようになり、その利便性はますます高まっていきました。
 ウェブは情報を送る側にはウェブサーバーと呼ばれるコンピューターシステムがあり、そこにホームページなどのウェブ情報は保存されています。そして、そのウェブ情報を見るためにはブラウザを使います。ウェブが開発されたころは、ブラウザを自分のコンピューターに準備するのも専門的な知識を要求されるため、大変でした。ところが大ヒットになったマイクロソフト社のオペレーティング・システム「Windows95」にブラウザが組み込まれて出荷されるようになり、一般ユーザーにもウェブが広がっていきました。多くの人がウェブを使うようになると、企業も新しいメディアとしてウェブを使いはじめ、ホームページからいろいろな情報を発信するようになりました。この時点で、大型汎用コンピューターの時代では計算をすることが主な目的であったコンピューターが、情報を伝達するメディアに変貌したのです。ネットワークを流れる情報も、計算に必要なデータではなく、さまざまなコンテンツを構成する画像や動画、音声などがメインになっていきました。

と、いうことで、ITの変遷で、三つ目のうねりである「インターネット」について説明していますが、まだ書き足りない事が相当あるので、今回はここらで切らせていただいて、次回は「インターネット」の続きからお話しさせていただきたいと考えます。すみませんが、よろしくお願いします。



2019年09月16日