その3:続々・IT(情報技術)って、何だ?

続々・「IT(情報技術)」って、何だ?

 前回、前々回に引き続き、「IT(情報技術)」ってどんなものかについてご説明したいと思います。

 今、ITが生まれてから現代にいたるまでのITの変遷について説明しています。前回までに、1960年代~1970年代後半までの、日本のコンピューター時代が幕開けし、大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)がITの中心にあった時代、またその続きである1970年代後半以降の「パーソナル・コンピューター(PC:personal computer)」がITの中心にあった時代、そして1990年代後半の、IT業界に三つ目の大きなうねりとなる「インターネット(Internet)」がITの中心にあった時代についてご説明しました。ただし、「インターネット」については現在のIT社会に与える影響が特に大きいため、少し詳しくご説明する必要があり、いろいろ説明しているうちに、ウェブ(World Wide Web)が登場した1990年ごろの話で前回は時間切れとなってしまいました。今回は、その続きとしてウェブ(World Wide Web)が登場した後から現代までのITの変遷についてご説明したいと思います。

 前回、「インターネット」が現在のように一般のユーザーに毎日のように使われるようになった転機の一つは、ウェブ(World Wide Web)の登場であることをご説明しました。ウェブにより、画像や動画・音声・文字(テキスト)などから成る、マルチメディアなコンテンツを作り、伝えることができるようになったのです。そして、新しいメディアとして、企業も自社情報を公開するためにホームページを作るなど、活用するようになりました。しかし、現在のように寝ても覚めてもインターネットにどっぷりと浸かるような生活にしたのには、もう一つの大きな影響を与えた転機があります。
 それは、書籍販売会社「オライリーメディア」を設立したことでも知られるティム・オライリーらが2000年中ごろに提唱した「Web2.0」というWebの新しい使い方です。その内容は、それまでのWebは情報の流れが一方向であった(たとえば企業が公開するホームページの情報のほとんどが、企業から顧客への一方向であった)のに対し、情報の流れを双方向にしようという提案です。さらにユーザー参加型のコンテンツにしよう、とか人間が実社会でおこなってきたコミュニケーションをWebで実現し、インターネット上でコミュニティーを作ろうなどというものでした。その結果、2004年ごろからFacebookなどのSNS(Social Networking Service)やWikipediaなどの新しいWebサービスが続々と作られることとなり、現在では若者のコミュニケーションはSNSを中心に行われるようになっています。
 情報の双方向性は、企業と顧客、送信者と受信者などの垣根をなくし、誰もが情報発信者として「インターネット」のコミュニティーに参加可能な環境をもたらしました。その結果、「インターネット」を流れる情報(データ)の量は急激に増えることになっています。その大量のデータは「ビッグデータ」と呼ばれ、その貴重さから、「データ」は現代の石油資源であるとも言われています。そして、その情報(データ)の多くは、米国のIT巨大企業であるGAFA(Google+Amazon+Facebook+Appleの頭文字を取ったもの)と呼ばれる一部のIT企業に握られており、巨額の富を生んでいるのです。彼らはその資金力を活かし、「ビッグデータ」を解析するための人口知能(AI)を開発し、さらに利益を生む体質を強化しようとしています。こんなにもうかるビジネスを、何故日本企業はやっていないのでしょうか?



総務省ホームページ 令和元年版情報通信白書のポイントより
(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nb000000.html)

 これらの企業をプラットフォーマーと呼んでいます。情報(データ)を吸い上げる基盤(プラットフォーム)を持っているからです。日本にはプラットフォーマーは存在しないのでしょうか? そんなことはありません。個人情報を吸い上げることが可能なプラットフォームは通信会社であったり、電力会社であったり鉄道会社であったり、大手コンビニエンスストアなど、主に全国的に社会インフラサービスを行っている会社はプラットフォームを持っており、プラットフォーマーと言えます。あとは、これらの情報をうまく利用することができれば、ビジネス的にも成功するものと思われます。ただし、日本ではプラットフォームビジネスを展開しづらい点がいくつかあります。
 その一つは市場規模です。プラットフォームビジネスでは、そのプラットフォームを利用するユーザー数が多いほど有利なため、日本でいくらシェアを増やしてもせいぜい1億人ほどで、世界市場を相手にしているプラットフォーマーにはかないません。日本市場に限定せず、世界的に展開していくビジョンが必要になります。
 もう一つは、日本人は個人情報をオープンにすることに対して保守的だということです。なかなか個人情報を入手するにはガードが固く、諸外国ほど簡単に情報が手に入らない状況にあります。ここらへんの事情から、なかなか日本初のプラットフォーマーが離陸しないのかもしれません。

 「インターネット」からビッグデータとなる大量の情報(データ)を得られるようになった背景として、スマートフォンの普及とITインフラの整備が挙げられます。「インターネット」も1980年代では、機能的には便利でもそれに必要なハードウェアとソフトウェアの値段が高く、つなげるためには電話線経由で接続する必要があり、電話線を借りられる場所が必要なことや通信機材が大きく重いため、持ち運びに不便であったことから、一般のユーザーが使うことはありませんでした。 それが、現在では「スマートフォン」の登場により、いつでも・どこでも・簡単に・安くインターネットに接続し、動画を見れるほど高速なネットワークを使えるのです。特にWifiと呼ばれる無線でインターネットにつながるしくみが、公共施設や乗り物などでも利用可能になったことで、日本の都市部ではほとんどどこでもインターネットを使えるようになりました。今や全世界で40億人もの人が「スマートフォン」を所有し利用することにより、以前とは比べ物にならないぐらいのスピードで大量の情報(データ)が集まるようになったのです。
 そして、「IoT(Internet of Things)」はさらにその情報収集のスピードを加速しようとしています。IoTとは、すべてのモノをインターネットにつなげて、集めたデータを役立つように使うことです。これまでインターネットにつなげるモノは、コンピューターやスマートフォンがメインでしたが、それに加えていろいろなセンサーデバイス、例えば画像を収集する防犯カメラや体温や脈拍を測るセンサーなどを、通信装置を使うことによりインターネットにつながるようにしようというものです。この情報は、これまでの人間が作りだす情報(メールやSNSなどの情報)に比べ、24時間休みなく高頻度で機械的にセンサーから生み出されるため、情報量が格段に多いのです。IoTにより、個人の体調管理や製造工場における生産管理、自動車の完全に機械まかせにできる自動運転システムなど、さまざまな応用が期待されており、これからもIoTを利用したシステムは増え続け、そこから生み出される情報(データ)も増え続けていくと思われます。
 また、「人工知能(AI:artificial intelligence)」も「ビッグデータ」や「IoT」と共に、今注目を集めるIT技術のひとつです。特にディープラーニングと呼ばれる2010年代前半ごろから盛んになってきた技術は、人間の脳の視覚処理のシミュレーションに向いており、その分野での応用が進んでいます。先ほどご説明した監視カメラなどで収集された膨大なビッグデータの中から、特定の特徴を持つ人(例えば不審者など)を見つけ出したり、MRIなどの医療データの中から癌を見つけることを人間の代わりにやって役立っています。とても人間がやっていては時間がかかりすぎる作業も、人工知能が短時間で、しかも見逃すことなく処理してしまうのです。このように人工知能はビッグデータの解析に力を発揮するため、IoT+ビッグデータと並行して、これから益々発達していく技術だと考えられます。

以上、「インターネット」以後のIT技術に関しても説明をしてきましたが、これらの技術はすでにIT業界の四ツ目のうねりの幕開けなのかもしれません。最初と二つ目のうねりが「大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)」と「パーソナル・コンピューター(PC:personal computer)」といったハードウェアを中心としたものであったのに対し、三つ目のうねりでは「インターネット(Internet)」という通信装置、ネットワーク装置といったハードウェアだけでなく、そこで流通する情報(データ)に関わるSNSなどのソフトウェアの技術を中心としたものへと変化しました。IT技術の中心が、ハードウェアからソフトウェアへ移ってきたのです。この流れは、最近さらに加速し「ビッグデータ」、「人工知能」などが現在最も注目されるIT技術はソフトウェア技術になっています。これらの技術はすでに新しい四つ目のうねりなのかもしれません。それほど大きなインパクトを持っています。
 さらに、ITの進化は止まらず、これから注目される技術として拡張現実(AR:Augmented Reality)や次世代の移動通信システムである5G(第五世代移動通信システム)などがあります。拡張現実とは、人間が現実世界から得ている情報を拡張してくれるシステムです。例えば現実世界の町を歩いていると、いろいろな建物が目に入りますが、その建物が何の建物かは看板などの情報からしか得ることはできません。しかし、拡張現実を実現するメガネ(ゴーグル)を着用してその風景を見ると、その建物にはどんな店が入っているか?誰が住んでしるか?などの情報を加えて見せてくれるのです。この実現には多くの情報が必要なため、ビッグデータが欠かせません。5Gは現在主流となっている第四世代の移動通信システムに比べ、通信速度が約20倍に、遅延時間が10分の1になるという次世代移動通信システムです。この性能アップにより、様々な新しいサービスが可能になると期待されています。このようなIT技術がいろいろにからんで四つ目のうねりを作っていくものと思われます。

(まとめ)
 3回にわたって「ITとは何か?」についてご説明してきました。
 「IT(情報技術)」とは、コンピューターや通信など情報を扱う工学およびその社会的応用に関する技術の総称であり、そこに含まれる技術は1つではなく、たくさんあります。
 また、「ITに関連する技術の性能向上のスピードが指数関数的に速い」ことにより、IT技術やIT製品はそう何年も同じ形で存在することができません。そのため、約20年程度のスパンでこれまで3回にわたり、大きな変化を遂げてきました。この変化のことを「うねり」と表現し、説明しました。
 1回目のうねりは1960年代~1970年代後半の時期で、コンピューター時代が幕開けし、「大型汎用コンピューター(メインフレームとも呼ぶ)」がITの中心にあった時代です。
 2回目のうねりは1970年代後半の時期からで、「パーソナル・コンピューター(PC:personal computer)」がITの中心になった時代です
 3回目のうねりは1990年代後半の時期からで、「インターネット(Internet)」がITの中心になった時代です。
 そして現在は「IoT(Internet of Things)」、「ビッグデータ」、「人工知能(AI:artificial intelligence)」、拡張現実(AR:Augmented Reality)や次世代の移動通信システムである5G(第五世代移動通信システム)など、次々に新たなIT技術が生まれ、新しいうねりを作ろうとしています。
 このように「IT(情報技術)」はこれらの技術の総称であり、年代とともに形を変え、常に大きく変化し続けているため、「捉えどころがない」と言えます。


2019年12月12日